ひそやかに帯びる電気を見過ごさず、宇宙科学を切り拓く
朝方、その日の天気予報を確認して服装や予定を決める人は多いだろう。カーナビやスマートフォンの地図アプリを使うのも日常の風景だ。こうした便利なサービスを支えているのが、地球の軌道上を周回する人工衛星である。防災や防衛など、安全保障の分野にも欠かせない存在であり、国家にとって極めて重要な技術の一つとされている。一方で、開発や打ち上げには莫大な費用がかるため、長期間にわたる安定した運用が求められる。人工衛星や探査機といった宇宙機の故障や事故を招く原因のひとつが、「帯電」と呼ばれる現象だ。宇宙機に使われる材料の帯電を計測する技術開発を進めるのが、理工学部の三宅弘晃教授である。
人工衛星はその姿から、金属が外側を覆っているイメージがあるが、実際は非常に薄いプラスチックのフィルムが使われており、搭載する様々な機器を熱から保護する役目を果たしている。宇宙空間は太陽光を直接受けるため、温度変化が激しい過酷な環境だ。その上、人工衛星が投入される軌道上は放射線の脅威にも晒される。目には見えない電子や陽子が高速で移動しており、これらがフィルムにぶつかることで少しずつ電気を帯び、やがて強く帯電するようになる。過度な帯電は放電を引き起こし、事故につながる。宇宙空間の微小なゴミ「デブリ」が、帯電した衛星へ衝突し、放電を引き起こすこともあるという。「帯電放電といいます。私たちも冬場にセーターを着ると静電気が体に溜まり、金属に触るとバチっと来ますよね。宇宙空間の人工衛星にも同じような現象が起きます。人間の場合は少し痛みを感じる程度で済みますが、人工衛星ではそうはいきません。命綱である電子機器が故障し、使い物にならなくなってしまいます。」

人工衛星における事故の半分以上が、帯電放電が原因によるものだという。実際に、2002年に打ち上げられた日本の地球観測衛星「みどり2号」では、帯電放電によって一年ほどでミッションを中止せざるを得なくなってしまった。覆っていたフィルムが放射線の影響によって強く帯電し、電力線との間で放電を起こしてしまったのだ。電力線の絶縁体に亀裂が入り、送電側と接地側の線が電気を通すショート状態になり、太陽電池からの電力供給が出来なくなってしまったことが原因とされている。より信頼度の高い人工衛星にするためには、設計段階から帯電の対策をしなければならない。三宅教授の研究室では、人工衛星や宇宙探査機に用いられる材料がどのように帯電するのか、その性質を日々解析している。「目的に応じて、地上で試験・解析するための計測評価システムを独自に開発しています。帯電を測る技術は、私たちの研究室が初めて開発した技術です。トップリーディングラボラトリーとしての責任を感じますね。国際機関や企業との共同研究も盛んに行なっています。」

人工衛星の他にも、今後計画されている月面探査などに用いられる宇宙機には、予期しない放射線の影響を受ける可能性があり、より高度で強力な帯電対策が求められる。三宅教授の研究室は、人工衛星に取り付けることで、実際の宇宙空間で帯電を測定する機器も開発している。「この機器にはコンピュータを内蔵しているので、電源供給さえあればデータを地上に送信できるようになっています。宇宙環境下で耐えられるものにするため、試験を繰り返し行い、放射線に対応した部品を使う必要もあります。あと数年で運用を開始できるよう、努力しています。」

三宅教授が所属する計測電機制御研究室では、様々な絶縁材料の評価を行っている。例えば送電ケーブルもその一つ。脱炭素社会の実現に向け、太陽光や風力、水力といった再生可能エネルギーによる発電が求められている。再生可能エネルギーの発電所はその特性上、郊外や海上に建設されることが多く、大量消費地である都市部に長距離の送電を行う必要がある。一般的な送電方式は交流だが、交流送電は送電線の抵抗などによって損失の影響を受けてしまい、長距離を送電する間に大幅なロスが生じる。また、太陽光発電や風力発電は直流で発電されるため、直流のまま送電を行うと効率が良い。研究室では、電気を通さない性質を指す「電気絶縁特性」を評価する技術を開発し、評価・解析結果をメーカーに提供することで、高電圧かつ直流の電流を安全に流すことができるケーブルの開発に貢献し、実際に運用されている。「超音波、そして紫外線よりも短い波長の光を使って評価します。絶縁体そのものは電気を通しませんが、分子のレベルでは少しずつ電荷が移動してたまり、そこから壊れてしまうこともあります。高電圧直流送電に対応したケーブルは特別に優れた絶縁性能が求められるのです。」

海外の各機関とも研究を推進し、国の宇宙政策にも携わる三宅教授に、現在の日本に足りないと感じるものを尋ねた。「寛容さ、でしょうか。今の社会は情報が溢れかえってしまっていますし、何事においても余裕がなくなってきていると危惧しています。日本と海外を比べると、どうしても予算規模が違ってくるのですが、特にアメリカでは“壊れてもいい”という考えのもと大量生産し開発を進めます。自ずとコストパフォーマンスも出てくる。様々な面でもっと寛容に、自由になってもいいのではないでしょうか。」
取材を進める最中も、研究室の学生がデータを分析する姿や、実験の準備に勤しんでいる姿が見受けられた。学生や若い世代に期待することはどのようなことなのだろうか。「人類はフロンティアを求めて技術革新を進めてきた側面があります。深海と宇宙が次なるフロンティア。私たちは宇宙を舞台に帯電を測定する研究を進め、次の技術革新を果たしたいです。学生にはプロフェッショナルな人材として社会で活躍してもらい、日本の技術力の底上げを図ってほしいと思いますね。」

宇宙機の表面に、誰にも気づかれずにひそやかにたまる電気。それがときに宇宙開発の命運を左右してしまう。三宅教授は、その微細な兆しを見逃さず、数値としてとらえ、確かな技術へと昇華させていく。研究室で生まれた知見と積み重なった成果は、やがて電流のように宇宙の静寂を走り抜け、次なるフロンティアを切り拓く光となる。
理工学部機械システム工学科、大学院総合理工学研究科 教授。総合研究所電子物性計測技術研究センター センター長。2005年、武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学研究科機械システム工学専攻 博士課程修了、博士(工学)。宇宙航空研究開発機構(JAXA)を経て、現在に至る。