新しい視点を取り入れ、社会基盤インフラの未来を築く
都心をすり抜けるように張り巡らされた高速道路。網の目のように走る地下鉄。日課の散歩で必ず渡る橋。私たちが日常的に通る橋やトンネルは、大量の人や車両を支え生活に欠かせない存在だ。しかし近年、橋梁やトンネルの老朽化により壁が崩落するなど、その維持管理が大きな課題となっている。より安全安心な社会にすべく、橋やトンネルといった構造物のモニタリングに関する研究を進めているのが、建築都市デザイン学部の関屋 英彦教授である。
インフラの構造物に使われる鋼材は、繰り返し力が加わると損傷が発生し、その後進展する。この「疲労き裂」は、最終的に大きな破壊につながり、構造物そのものが大きく壊れてしまう。人的被害はもちろん、その後の復旧作業にも膨大な時間を要するため、経済的な損失も大きい。このような事故を予防するために、日頃の保守点検は欠かせないが、従来の目視による点検では昨今の人手不足の課題に加え、見落としの可能性がある。そこで関屋教授は、MEMSと呼ばれる微小な機械を用い、保守点検をリアルタイムで自動的に行えるシステムを開発した。この開発したシステムを橋やシールドトンネルに取り付けるだけで、車や列車が走ったときの振動により状態を評価でき、仮に地震が発生した際にも、瞬時にインフラの構造物の状態をチェックできる。

関屋教授の研究は多岐にわたり、建設現場をより効率的にする研究にも取り組んでいる。街中の建設現場で、一人がメジャーのようなものを立て、それをもう一人が機械で覗いている姿をご覧になったことがある方もいるだろう。「レベル測量といって、高さを測って計画通りにきちんと建物や構造物が出来上がっているかチェックしています。機器は進化していますが、原理は長い間変わっていません。この作業を自動化できないか、という研究です。」
レベル測量は早朝や天候が悪い中でも行う必要があり、現場によっては過酷な作業となることも少なくない。さらに人手不足や人件費の高騰も課題となっている。関屋教授の研究は、測量作業をセンサーに置き換えるもの。実際に施工中のPC橋梁(プレストレスト・コンクリート橋梁)にて実施した実験では、センサーで取得したデータから分析した結果と、従来のレベル測量のデータがほぼ一致することが確認された。さらに複数の衛星を利用した測位システムである、GNSSを活用した計測方法の研究も進められており、施工管理の一層の効率化が期待されている。
また、現実世界の構造物をコンピュータ上で再現し、シミュレーションやデータ分析を行う「デジタルツイン」の研究も進められている。単にモデルを再現するのではなく、実際の構造物から取得したデータを基に高精度なモデルを作成する。「この構造物が50年後、100年後にどうなるか予測できるようになります。橋のこの部分を補強したほうがいい、とか、道路のこの部分を最初に補修していくべきだ、ということがわかるようになります。」
民間企業との研究も盛んだ。例えば、道路の舗装にセンサーを埋め込み様々なデータを取得する研究もその一つである。車や人の動きを検知し、舗装の健全度を計測するほか、将来的には自動運転にも活用できるデータになるよう研究を進めている。「橋やトンネル、そして道路も含め、すべては未来のインフラを構築するためにはどうすればよいか、という考えのもと研究を進めています。」

社会に実装され、豊かな生活に貢献できたと実感することが、研究を続ける最大のモチベーションだと関屋教授は語る。「論文発表などを通じて多くの人に知ってもらい、さらに、その研究成果が社会に実装されることが重要だと思います。」
また、実際に建設された構造物にて実証実験を行うことを大切にしている。「シミュレーションでは、様々な仮定が入ることやモデル化の困難さから、実際の現象をそのまま再現することは困難なケースが多々あります。橋やトンネルは大量生産できるものではなく、一つ一つがオリジナルです。気温や湿度によっても得られるデータが変わってきてしまうので、シミュレーションだけではなく実際に計測することを大切にしています。」

東京都心では、日々多くの人や車、鉄道が行き交い、それに伴って構造物の老朽化も進む。東京だからこそ行える研究を聞いた。「東京は課題も多様で、さまざまな分野の専門家もいらっしゃいます。課題をシェアして、それぞれが連携しながら課題を解決することが求められるのではないでしょうか。」
関屋教授が研究を通じて実現させたい社会とはどのようなものか。「今の技術では、このインフラは絶対に安全ですよ、と言い切ることは難しいです。しかし、研究を進めることで、安全性を高めることはできます。そして、携わる人口が少なくなっても魅力的な構造物を施工できる技術開発が研究を通じて実現し、人々がこれまでより豊かな生活が送られるようになればいいですね。」
橋やトンネル、道路といったインフラは、私たちの日常を支える欠かせない存在である。毎日の通勤や物流、移動を支え、大きな役割を果たしている。しかし、時が経つにつれて老朽化が進み、人手不足による点検や維持管理の困難さといった課題が顕著になった。関屋教授は、この現実に真正面から向き合い、最新技術を活用した構造物のモニタリングや効率的な施工管理の実現に挑戦している。教授が目指すのは、安全性の向上だけでなく、技術革新によって持続可能で魅力的な未来のインフラを築くことである。それは単に構造物を守ることにとどまらず、人々の暮らしをより豊かにする未来への架け橋となる。

建築都市デザイン学部都市工学科、大学院総合理工学研究科 建築都市デザイン専攻 都市工学領域教授。2009年、東京工業大学工学部土木工学科卒業。2011年、東京工業大学理工学研究科土木工学専攻修士修了。2016年、東京都市大学博士(工学)。