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建築・土木
2025/11/08

人の知恵をデータに託し、未来の建設を描く

総合研究所 特任教授矢吹 信喜
  • BIM/CIM
  • デジタルツイン
  • 建設DX
  • VR/AR/MR
  • スマートインフラセンシング
  • AI

私たちが暮らす家、訪れる商業施設、働くオフィスビル、社会を支えるダムや橋といったインフラ施設。すべての構造物は設計と施工、そして維持管理によってできている。しかし、人口減少や熟練技術者の引退による人手不足によって、建設現場はかつてない厳しい状況に直面している。その中で昨今、注目を集めるのが、建設のプロセス全体をデジタルデータとして可視化し、活用する取り組みであるBIM(ビム)/CIM(シム)だ。暮らしの土台を次の時代へと確かに引き継ぐために、BIM/CIMの研究を推進するのが、総合研究所土木建築情報学研究室の矢吹信喜特任教授である。

BIMはBuilding Information Modeling、CIMはConstruction Information Modelingの略称である。「建設する」と一言で表現しても、そこには調査、測量、設計、施工、そして維持管理といった段階があり、数多くの企業や人々が介在する。2次元の図面や、計算書といった膨大な資料を用いて各所での合意形成を行い、同時にコンピュータへ数値を入力し計算を行う。情報共有に時間がかかり、ミスも起こってしまう。BIM/CIMでは、建設事業の各段階において必要なあらゆる情報をデータ化し、利活用することで情報共有が容易になり、生産力向上や省人化を目指す。「多くの建築現場では、何かと職人に頼る場面も多かったのですが、年々、引退される方も増え、今後は人手不足が深刻化します。2次元図面を3次元モデルにし、手動で入力していた様々なデータを機械判別可能なデジタルデータにするBIM/CIMの導入は、特定の人に頼ることなく、構造物全体の品質向上にも役立つことが期待されています。」

BIM/CIMについて説明する矢吹特任教授。
BIM/CIMについて説明する矢吹特任教授。

矢吹特任教授はこれまで、ICタグ、無線センサー、バーチャルリアリティ(VR)、オーグメンテッドリアリティ(AR)、3次元モデル、4次元モデルなど、多種多様なBIM/CIMに関連する研究開発を行ってきた。研究初期には、ICタグを構造物の部材に貼り付け、その部材がいつどこで作られたのか、どのような材質でできているのかといった、いわゆる属性情報をデバイスで読み取れるようにし、同時に3次元モデルとも連動させる手法を開発。沖縄県のダム建設で点検を効率化させる実務に用いられた。デバイスや各技術の発達に応じて、研究内容も発展させている。「建設現場で専用のメガネをかけてもらい、実際の構造物に3次元モデルを投影させる研究も行っています。また、神社仏閣といった歴史的な建造物の近くに現代的な高層建築ができてしまうと景観を阻害するため、高さの規制をする必要があります。周辺の土地の3次元モデルを作成することで、柔軟に実際の土地に合わせた規制を行えるようにする研究も行いました。」

矢吹特任教授は大学卒業後に電源開発株式会社に入社し、土木部設計室に配属される。1982年当時はアナログな設計手法が主流の時代であり、地盤の掘削・盛土の体積計算や構造・水理計算は手作業で行っていた。時間もかかり、一度間違えると最初からやり直すことも珍しくなかった。「図面は専用の器具を用いて手で描いていました。複雑な計算は大型計算機を使います。結果は一行ずつ印刷され、それを図面に書き入れて…という、本当に気が遠くなる作業の連続でした。そんな時、訪れた展示会で製造業で使用する3次元CADの存在を知り、衝撃を受けました。土木や建築にも使えると感じ、会社で導入し運用するプロジェクトに私も入り進めました。しかし、別の現場へ人事異動が決まり、またアナログの世界に戻ってしまったのです。もっと勉強したいと思うようになり、スタンフォード大学への留学を決めました。」

当時のスタンフォード大学はAI研究のメッカだった。AIや3次元CADのみならず、ロボティクスやデータベースといった様々な先端技術を組み合わせた土木や建築の設計施工を学んだ。博士号を取得し日本に帰国するが、その時には3次元CADに対してネガティブなイメージが広がってしまっていたという。AIに対してもコストパフォーマンスの観点から、あまり良いイメージは持たれていなかった。「機械やソフトのトラブルが重なり、社内では徐々に撤退する方向になってしまいました。私も全く違う部署へ異動することになりましたが、それでもAIやCADの勉強は続けたいと思っていたところ、運良く採用してくれる大学に出会い研究活動を続け、今に至ります。」

“Professor Yabuki laughs, recalling, ‘Even though I had been doing research abroad, I ended up working in a completely different field after returning to Japan. That’s just how reality goes, I suppose.’”
「海外で研究してきたのに、戻ってきたら全く違う分野の仕事をすることになりました。現実とはそういうことなんだろうなという感じでしたね。」と笑う矢吹特任教授。

幅広い研究を手掛ける矢吹特任教授だが、念頭には2003年から自身が提唱する「国土基盤モデル」という、現在のデジタルツインに通じる考え方がある。現実世界で取得されたデータが、コンピュータ上のモデルに活用され、反対にコンピュータ上で得られた情報や結果が、現実の建物に反映される仕組みだ。「自分でも研究の幅が広いなと感じることもあります(笑)。ただ、これは最終的な目標や青写真をもとに、領域や要素をパーツごとにわけ、研究を進めていった結果です。私はもっと土木建築に情報通信技術を応用させたいですし、興味ある分野をどんどん研究したい。今後はこれまでの研究を進化させつつ、量子コンピューティングや生成AIを応用した研究も進めていきたいですね。」

矢吹特任教授が2003年から提唱する「国土基盤モデル」の全体像。現在のデジタルツインに通じる考え方だ。土木建築情報学研究室ウェブサイトより転載。
矢吹特任教授が2003年から提唱する「国土基盤モデル」の全体像。現在のデジタルツインに通じる考え方だ。土木建築情報学研究室ウェブサイトより転載。

矢吹特任教授は、国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務めるほか、2025年には東京都市大学も参加する産学官の国土交通省チームが国際賞「openBIM Awards 2025」のインフラ設計部門で、日本初の部門最優秀賞を受賞した。アジア土木情報学グループの設立や各地での講演などの活動を精力的に行う矢吹特任教授に、若い世代にはどのようなことを期待するか尋ねた。「興味がある、と思ったことは恐れず追求していってほしいですね。その上で、ぜひ英語で論文を書き続けてほしいです。世界はフェアにその内容を判断してくれますよ。」

「私が大学で研究職に就いたのは39歳。ひたすら研究を進め英語論文を書いていたら、国内より先に海外から評価いただくようになりました。」と自身の経歴を説明する。
「私が大学で研究職に就いたのは39歳。ひたすら研究を進め英語論文を書いていたら、国内より先に海外から評価いただくようになりました。」と自身の経歴を説明する。

BIM/CIMとは、建設に関わる情報を単にコンピュータ上で扱う技術ではなく、現場の見えない努力を可視化し、あらゆる課題を乗り越えるための思想とも言える。データには、これまで培ってきた人々の判断や経験、そして誇りが刻まれている。矢吹特任教授が描くのは、機械が人に取って代わる世界ではなく、人の知恵が技術に宿り、技術が人を磨く、未来の建設の世界だ。

矢吹 信喜 YABUKI Nobuyoshi
矢吹 信喜 のプロフィール画像

総合研究所土木建築情報学研究室特任教授。1982年、東京大学工学部卒業、電源開発株式会社入社。土木構造物の設計業務や3次元CADの導入業務に従事。1992年、スタンフォード大学大学院工学研究科土木工学専攻、博士号取得。室蘭工業大学准教授、大阪大学教授等を経て、2025年4月、東京都市大学着任、現職。

APPENDIX追加資料

・researchmap(矢吹 信喜)
・東京都市大学 総合研究所 土木建築情報学研究室

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