不確実な未来からアプローチする「町田市未来都市研究 2050」の挑戦(第2回)
東京都市大学未来都市研究機構と町田市未来づくり研究所による共同研究「町田市未来都市研究 2050」について伺った座談会レポート。第2回は、研究の進捗がテーマです。町田市にはどんな課題があり、研究はどの段階なのか。前回に引き続き、町田市未来づくり研究所からは、所長の市川宏雄先生(明治大学名誉教授)と担当係長の野田健太郎氏、東京都市大学からは西山敏樹准教授、北見幸一准教授にご登場いただきます。
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選ばれる強烈な個性がない町田市
北見准教授
町田市の現状と課題認識のどのようになっているでしょうか?
市川先生
町田市の課題は、町田市にとってもわからない。というのも、町田市職員は町田市出身者が多く、町田が大好き。そのため、外から見て、「今はみなさんが大好きな市だけれど、30年後はどうなるか」と指摘する必要があると考えます。町田市は郊外の主要都市だけれど、「これが町田」という際立った特徴はあるのか? 近年は都心回帰の傾向が続いてきましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で郊外が注目されています。そのなかで、「町田市は選ばれる郊外になるのか」ということです。
市川宏雄 町田市未来づくり研究所所長
北見准教授
例えば、立川市は産業、府中市は経済というイメージがあります。町田市は商業でしょうか。
市川先生
確かに町田市は、街道筋で商業地域として発展しました。ただ、それは開発余地のない緑が多く、自治体にお金を生むような開発ができなかったから。商業施設もワンセット型で、都心と似てるけどちょっとランク落ちなのです。それなら都心へ行けばいいとなり、魅力が簡単にはアップしません。町田駅周辺には開発余地があまりなく、さらに新しくすることはできません。必要なものはそろっているけど、おそらく個性がない街なのです。郊外都市として選ばれるかもしれないけれど、上位を望めるかというとクエッション。この「新しい魅力のある都市になれるか?」というのは、同市の長年の課題です。
北見准教授
「町田市未来都市研究 2050」では、町田市の「郊外型都市」の在り方について示唆を得るために、町田市及び比較3都市(東京から30~40km圏)の住民に、インターネットによるアンケート調査(注)を実施しました。4都市の合計より上位となった町田市の印象(図表1参照)としては、「夜遊びできる歓楽街がある」「高齢者向けの施設、サービスが充実している」「ファッションや趣味的なものなど、こだわりの店が多い」などが挙げられています。これらは強みになるでしょうか?
図表1 4市合計より町田市が上位の住むまちの印象(差分上位5項目)
市川先生
「それでもいい」という発想かどうかだと思います。特に、高齢者に手厚いのは、行政がそれだけお金を使っているからでしょう。しかし、中長期的にそれでいいのかということ。高齢者向けに力を入れる政策のほかに、さらに「これ」というものがあれば、もっと満足度の高い都市になるはずです。
西山准教授
おそらく、福祉系が強いのは、自治体がバリアフリーに古くから取り組んでいて、福祉政策は長い年次で実績を重ねているからだと考えます。それと同様で、今すぐに突出した強みをつくるのは難しいはず。短期・中期・長期で考えていく必要があると思います。
北見准教授
逆に、4都市の合計より下位、つまり町田市の印象として弱かったのは、「先進的な研究機関、大学がある」「観光名所がある」「名前が知られている」など。認知度に不安を持っている方が多いのかなという印象です。特段に光るものはないけど、暮らしやすい(図表2参照)。
図表2 4市合計より町田市が下位の住むまちの印象(差分上位5項目)
西山准教授
人間で言うとジェネラリストみたい。
市川先生
今の住民を満足させるだけでいいなら、自治体にお金があればいい。都市全体としてどうあるべきかを忘れてはいけません。
自治体が、民間の力を借りる意義
西山准教授
文化的な面が弱いと感じている人が多い。
野田氏
町田市では、他の調査結果から見ても文化的な体験ができるかと聞かれると、接触機会が少ないという回答があります。このアンケート結果を見ても、イメージとしてそうなのだなと痛感します。
野田健太郎 町田市未来づくり研究所担当係長
市川先生
このような調査をもとに、自治体側に危機感を持ってもらうことが必要だと考えます。一般に都市開発となると、どうしても地域や環境団体などともめるため、自治体も尻込みしてしまう。それでも、やらなければならないという危機感です。例えば、観光名所がないと言うならつくるしかない。それも、三鷹市の「三鷹の森ジブリ美術館」に匹敵するような本格的なものを。そのような全国区の観光名所をつくるには、民間の力を借りて、強力に推し進める必要があるでしょう。
西山准教授
民間の力を借りる、というのがキーポイントですね。
市川先生
そうです。そのためには、民間は、意見をぶつけ合って新しいものを生む。でも、役人は前例にないことを始めれば、批判されがち。たとえ成功しても、批判されるかもしれません。だったら、民間にお願いするほうが、自治体としてもやりやすいと思います。
PEST分析で、未来の分岐点に関わるキーワードを抽出
北見准教授
町田市の現状や課題がわかったところで、研究の進捗について話を進めたいと思います。
西山准教授
私たちは、未来シナリオを検討する上で、未来を左右する分岐点を探るため、PEST分析に基づく有識者ヒアリング調査を行いました。PEST分析は、政治・法的要因(Political)、経済的要因(Economical)、社会・文化的要因(Socio-cultural)、技術的要因(Technological)の4つの領域から、今後どのような環境変化が起こる可能性が高いのか。何が分岐点となるのかを抽出するもの。今は、ワークショップを通じて、分岐点に関連するキーワードを検討している段階です。
西山敏樹 東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 ヒューマン・センタード・デザイン研究ユニット長
北見准教授
今、挙がっているキーワードとして、例えば技術の領域ではどんなものがあるでしょうか?
西山准教授
DX(Digital transformation)がキーワードです。今後、エコノミーも政治もデジタル化し、社会の仕組みも変わっていくと予想されます。これは、世界共通の流れ。技術が、町田市の幸福度を上げていくかを見ていく必要があります。
北見准教授
住民が技術を使って、アイデンティティーをつくっていけるかどうかにかかっていますね。
野田氏
デジタルで生活が便利なりますが、「ご飯を食べておいしい」「この場所がここちよい」といったような、根本的な幸福感を得られるかどうか。五感をデジタルは補完しますが、そこから先はどうしていくのかが大事ですね。
西山准教授
そうです、技術は人間の活動とのハイブリッドが重要だと思います。AIを人間がどう使いこなすかなど、そこが大事かと。技術の領域では、このようなハイブリッドを意識したキーワードが多く挙がっています。
野田氏
都市に、新たなテクノロジーが実装されたとき、住んでいる方々の生活のなかにどれぐらい入り込んでいるかを中心に据えて考えていくことは重要ですね。われわれはテクノロジーの知識があるわけではないので、専門家の力に期待しているところです。
北見准教授
この他の領域でも、専門家の方々に、「世界のパワーバランス」「レジリエンスと分散」「ポストSDGsにおける宗教観とサステナビリティ」など、さまざまなキーワードを挙げていただきました。これらを踏まえて分岐点を検討し、複数の未来シナリオを策定していく予定です。
北見幸一 東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 都市マネジメント研究ユニット長
(注)調査概要は、以下の通り。
調査対象:町田市、および東京から30~40㎞圏の所在する3つの自治体の市民
調査手法:インターネット調査法
調査対象者:20~74歳の男女個人(調査協力モニター)
サンプル数:4,141 サンプル
実施時期:2020年6月26日~2020年7月6日