第184回総研セミナーレポート(4) パネルディスカッション「今後のコミュニティ生成のあるべき姿とは?」
「空地の利用と未来のコミュニティ生成」をテーマに、未来都市研究機構主催セミナーが開催されました(2021年10月29日実施)。
都市の中には、人口減少などの理由で空いた土地が増え続けています。一方で、その空地を有効活用し、コミュニティ形成につなげる活動も目立っています。今回のセミナーでは、そんな空地・空間を活用した今後のコミュニティ生成について、各専門家からそれぞれの観点で語られました。ここではセミナーの最後に行われた、講演者を交えたパネルディスカッションをご紹介します。
登壇者は講演者である柳堀裕太氏(一般社団法人 オンラア未来会議 代表理事)、石井大一朗氏(宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授)、坂倉杏介氏(東京都市大学都市生活学部 准教授)に加え、そして、討論者として、沖浦文彦氏(東京都市大学 都市生活学部 教授)、丹羽由佳理氏(東京都市大学 環境学部 准教授)が参加者し、西山敏樹氏(東京都市大学都市生活学部 准教授)のコーディネートでパネルディスカッションが行われました。
東京都市大学 都市生活学部 教授 沖浦文彦氏
――本日は貴重なお話ありがとうございました。「過疎」「地方都市」「東京」という三類系からの事例であったことも有意義でした。そこでご意見を伺いたいのですが、今後日本の人口は年間約50万人から場合によっては約100万人という規模で減っていくと予想されます。その勢いで減るとこれまで広げたインフラが空地化するのは必然ではないかと思えます。このような巨大な脅威の中にある日本において、現場で実践されている皆様はどのような展望をお持ちなのかお聞かせください。(東京都市大学 都市生活学部 教授 沖浦文彦氏)
個人的な考え方では、人口減少は歓迎だと思っています。私たちは空地を1つ1つ価値化するという行動をとっており、地域の産業リソースを使って子供たちに人材育成事業を行っています。ゆえに、無価値の輪が広がることで、価値化しやすくなるので、中長期的に見れば価値のある場所が増えていくと言えるでしょう。少数の人が価値のある場所を手に入れ、今後90億人になろうとしている世界人口に対して、アプローチしていく準備をしているという状況ですね。(一般社団法人オンラア未来会議 代表理事 柳堀裕太氏)
自分たちがやりたいことに不自由さを感じているのであれば、まずはそこから解除することが先決ですね。それを行う地域とそうでない地域では、50年先に大きな差が生じていると思います。2040年からは単身世帯が急増すると予想されています。これに対しては家族内総合扶助や、同じニーズや課題を持つ人がつながるように、セルフヘルプグループ的な発想を持つことが重要ですね。(宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授 石井大一朗氏)
そもそも人口が減少して経済が低迷していく中で、未だに都市開発が行われ続けていることに疑問を感じています。今の社会は「人口が増えている」状況に合わせて設計されてきたのですから、その社会を維持するために人口が減っては困るというのは問題の立て方がそもそも違うと言えます。人口が増え続ける前提でつくられた社会システムの限界が見えてきているということなので、再編する必要があるのではないでしょうか。(東京都市大学都市生活学部 准教授 坂倉杏介氏)
東京都市大学 環境学部 准教授 丹羽由佳理氏
――環境学部の視点から質問させてください。コミュニティ生成する際には、地域の人をどのように動かすように意識しているのでしょうか?また、環境学部はGISなどシミュレーション解析をする先生が多いという特色があります。コミュニティ生成の場において、解析や分析というニーズがあれば教えていただきたいです。(東京都市大学 環境学部 准教授 丹羽由佳理氏)
「芝のはらっぱ」では、まず町会長と問題状況について話し合いました。例えば、固定資産税の減免方法などは助言し、実行委員会の発足まで伴走しました。現在では、基本的に事後報告的に話が入ってくるという状況です。環境系センサーの設置やモニタリングを開始するところまでは進めたのですが、実際にデータの取得・分析を一人で行うと大変な時間がかかってしまいます。ぜひ、学部横断型で色々なことが一緒に行えればありがたいです。(東京都市大学都市生活学部 准教授 坂倉杏介氏)
コミュニティ生成においては、“スーパースター”がいると上手くいかないと言われています。そのため、私が前面に出ることはまずないですね。地域の人との会議で参加するのは、ほぼ初回のみ。2回目からはファシリテーターを決めて進めています。社会調査のアプローチでは人の意識に目を向けてロジェスティック分析を行いますが、本日お話した生態学系分野は全く自分の視界になく、その分析は私たちではできません。その分野についての知見をいただければ、上手に活用したいと思います。(宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授 石井大一朗氏)
人を自律させるのはとても難しいと実感しています。現在のところ運営会議はメンバーが自律し始めていますが、全体会議はファシリテーターがいないと話が進みにくいという状況です。分析・解析に関しては、ぜひ相談させていただきたいと思っています。そもそも私たちのどのような活動を分析・解析すれば効果が出やすいのか、というところからご意見をいただきたいところです。(一般社団法人オンラア未来会議 代表理事 柳堀裕太氏)
――空地を利用したコミュニティ生成では、“持続可能性”も軸となると思います。活動を長く続けるのは何がポイントになるとお考えでしょうか?(コーディネーター:東京都市大学 都市生活学部 西山敏樹氏)
正直なところ、先生方ですら5年後の日本は読めないと思います。とにかくその時々の状況を知らせ、考え続ける集団をつくるのがポイントになるのではないでしょうか。常に持続させていくためのベースを整備し、徹底的に思考する場づくりが重要だと言えます。(一般社団法人オンラア未来会議 代表理事 柳堀 裕太氏)
地域内のコミュニケーション力を高めることがカギですね。自分の家の隣がゴミ屋敷になっていたり、DVが起きていたりすることは想像すらできないですが、実際に近隣で起こっていることも珍しくありません。まずは、想像力を持ってコミュニケーション力を身につけること。これがない地域社会の将来はないと感じています。(宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授 石井大一朗氏)
関わる人が“ウェルビーイング”な状態であり続けることが大事ですね。何か課題があったとしても、その課題がよほど自分ごとではない限り長くは続きません。地域に関わる内容が何であれ、その人が心身ともに良い状態になれるのであれば長続きする可能性は高いでしょう。まちは1人ひとりの人生が営なまれている現場。まずはそれぞれの人生が輝けるまちの作り方を設計できるプロジェクトを進めるべきと考えます。(東京都市大学都市生活学部 准教授 坂倉 杏介氏)
皆さんのご意見は大変示唆的で、課題に取り組む時は持続性が不可欠だと説得力を感じます。それと同時に、地域には色々なお金が流れている可能性があるとも想像できます。すでに地域で確立されているフローとコミュティを乖離させる必要はなく、上手に活用することでコミュニティ生成をより円滑にするのではないでしょうか。都市計画は都市計画、福祉は福祉というように、役所の縦割りにするのではなく、仕組みとして成立させることも1つの手かもしれませんね。(東京都市大学 都市生活学部 沖浦文彦氏)
街と未来とつなぎ、人と人をつなぐ──。空地の利用とコミュニティ生成は未来都市のあり方を考える上で、有効なアプローチと言えるでしょう。今後も学部を横断した、多くの専門家による研究の深化に期待していきたいです。
(コーディネーター:東京都市大学 都市生活学部 西山敏樹氏)