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KAGRAのトンネル。3kmにわたって直径80cmの真空ダクトが続いている。東京大学宇宙線研究所提供。

基礎研究
2025/12/22

多様なメッセンジャーとともに、宇宙の姿を追う

総合研究所 特任教授大橋 正健
  • 多様な宇宙観測
  • 重力波
  • 一般相対性理論
  • 元素合成
  • レーザー干渉計
  • 極低温技術

アクセサリーの素材としても身近な金やプラチナ、産業を支えるレアアース。こうした重元素と呼ばれる質量の大きい元素の多くは、はるか遠い宇宙で起きた連星中性子星合体という天体同士の衝突により生み出されたと考えられている。身の回りにある素材の背後には、壮大な宇宙の営みが潜んでいるのである。この事実を明らかにしたのが、宇宙を多角的に読み解く新たな手法、マルチメッセンジャー天文学だ。この先端的な手法を駆使して宇宙を探究し、社会にその姿を伝えているのが、総合研究所マルチメッセンジャー研究室の大橋正健特任教授である。

大橋特任教授は長年、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」に携わっている。KAGRAは岐阜県飛騨市の神岡鉱山の地下に建設され、2020年2月25日に観測を開始した。周辺には、ニュートリノを観測するスーパーカミオカンデやカムランドのほか、以前はダークマターの検出を試みるXMASS(エックスマス)などもあり、世界的にも重要な観測施設が集積している。KAGRAの計画は2010年に始まり、2012年に着工した。L字型に延びるトンネルは全長6kmに達するが、建設は決して順調ではなかったという。「トンネルを掘り進めると地下水がどんどん溢れてくる過酷な環境でした。掘削工事が完了したのは2014年の3月。そこから実験設備や機材を搬入し、試運転を経て、2020年から正式に観測を開始しました。」

KAGRAの概要について説明する大橋特任教授。
KAGRAの概要について説明する大橋特任教授。

重力波はブラックホールといった極めて高密度な天体である「コンパクト天体」同士の合体や、寿命を迎えた恒星がその最期に起こす「超新星爆発」などによって生じる時空のゆがみが、光速で伝わる現象である。重力波の信号は非常に微弱なため、簡単に観測することはできない。地表のわずかな揺れでも容易にかき消されてしまう。そのためKAGRAは、地表の影響を受けにくい地下200mに建設された。観測には「レーザー干渉計型検出器」と呼ばれる装置を用いる。直行する2本のトンネルの両方向へレーザー光を送り、先端に設置した鏡で反射させ、戻ってきた光の干渉を調べる仕組みだ。光が互いに打ち消し合うよう調整した状態で待機させ、そこに重力波が到来すると光の干渉パターンが現れ、それを解析する。「地下は振動が地表に比べて100分の1程度に抑えられます。2024年1月1日の能登半島地震の際は、鏡を制御する装置などに不具合が生じましたが、既に修復されています。また、熱は物体が揺らぐ原因になるので、鏡もサファイアを使い、マイナス253度まで冷やした状態で設置しています。これらによって可能な限り振動を抑えています。」

KAGRAの全体イメージ図
KAGRAの全体イメージ図。東京大学宇宙線研究所提供。

従来の天文学では光(電磁波)を観測することが中心だった。しかし今日では、重力波や宇宙線、ニュートリノといった、宇宙から情報を届けてくれる、複数の運び手の存在が明らかになっている。それらの「メッセンジャー」を同時に観測し、多角的に宇宙を理解することが重要とされ、盛んに研究されている。例えば、コンパクト星同士が衝突した場合、最初に地球に届くメッセンジャーは重力波だ。その後にガンマ線、X線、可視光、赤外線などの電磁波が届く。重力波と思しき信号を受信すると、その発信源の方向を特定し、そちらに向けさまざまな光を用いた多波長観測が行われる。こういった複数のメッセンジャーを組み合わせる天文学が「マルチメッセンジャー天文学」だ。世界にはKAGRAのほか、米国のLIGO、欧州のVirgoの4台の大型重力波望遠鏡がある。2015年にLIGOが歴史上はじめて重力波を観測して以降、各国が協力して重力波を観測する体制をとっている。「地球に重力波が到来した際、その方向を推定するためには、検出器に到達する時刻の差を用います。地球上の離れた3点で観測を行うことが、マルチメッセンジャー天文学においてはとても大事なことなのです。」

マルチメッセンジャー天文学のイメージ図。研究室のウェブサイトより引用。
マルチメッセンジャー天文学のイメージ図。研究室のウェブサイトより引用。

マルチメッセンジャー天文学によって解き明かされたのが、金やプラチナといった重い元素が「宇宙のどこで作られたのか」という大きな問いである。2017年に観測された「GW170817」は、地球から約1億4000万光年離れた中性子星同士の合体によって発生した重力波だ。GW170817の検出後、すぐに世界中の観測機関が協力し多波長観測を開始。その時に見えた光は、時間とともに色や明るさが変化する特徴的なもので、重い元素を生み出す「キロノバ」と呼ばれる天体の輝きだった。解析の結果、太陽数個分に匹敵する量の重元素がその場で作られたと推測されている。重い元素の誕生現場を初めて直接とらえたこの出来事が、マルチメッセンジャー天文学の幕開けとなったと言われている。「2017年の重力波検出は、天文学にとって大きな出来事なのです。ダイヤモンドは炭素なので地球上で生成できますが、我々が貴金属と呼んでいるプラチナや金といったものは、宇宙で生成された星くずが地球に埋め込まれたもの、と考えることができます。」

「重力波は見えるわけがない、と言われたこともありました。ただ、現代はそれを観測できる。世界が変わったと思います。」と感慨深く語る大橋特任教授。
「重力波は見えるわけがない、と言われたこともありました。ただ、現代はそれを観測できる。世界が変わったと思います。」と感慨深く語る大橋特任教授。

大橋特任教授は幼い頃から宇宙に興味があったが、一般的な趣味程度だったという。「物理の世界は高校生の頃から興味を持ち始めましたが、本格的に宇宙や重力波の研究をはじめたのは大学院に入ってからです。お世話になった恩師との偶然の出会いが、研究のきっかけですね。物理の世界では知りたいことを解き明かすために、観測する装置そのものを作る必要があります。重力波は壮大かつ微細な現象なので、長い時間がかかってしまいます。KAGRAがある飛騨市に長年住んでいましたが、その間に趣味や趣向も変化しましたよ。」

今後は、宇宙や重力波、マルチメッセンジャー天文学の奥深さや楽しさを社会に伝えていく活動を、より活発に行いたいという。「実験をして論文を書く、ということももちろん大切ですが、その楽しさを広く伝えていくことも大切にしたいです。先日も飛騨市にお邪魔して、地元の皆さんや高校生と会談をしてきました。今後は、TCU Shibuya PXU(注:東京都渋谷区にある、東京都市大学が運営する社会と大学の交流拠点)でも定期的にイベントを開くなど、積極的に研究成果を伝えていきたいですね。」

研究を推進するにあたって大事にしている視点を大橋特任教授に尋ねると、まさしくマルチメッセンジャー天文学を思わせる答えが返ってきた。「多様性、ですね。色々な人間という多様性もあるし、研究の多様性も大切です。色々な視点を大切にしてほしいと思っています。例えば、この大学の良さは中にいてもなかなか気がつくことができないですが、外から見るとさまざまな魅力が見つかる。多様な世界に身を置くことで発見できることは多いと思います。」

「国際会議に出席すると、あらゆる国の人と会話することになります。まさに多様な文化を感じることができますよ。」と語る大橋特任教授。
「国際会議に出席すると、あらゆる国の人と会話することになります。まさに多様な文化を感じることができますよ。」と語る大橋特任教授。

世界中が協力し、多様な知見を結集することで、地球や宇宙の姿が少しずつ明らかになっている。しかし、宇宙にはまだ多くの謎が残されており、多様性をはらんでいる。その端に身を置く私たち人類も同じではないだろうか。小さな変化を感じ取り、様々な視点から見つめることが、あらゆる謎を解き明かす上で重要な鍵なのかもしれない。

大橋 正健OHASHI Masatake
大橋 正健のプロフィール画像

総合研究所マルチメッセンジャー天文学研究室 兼 宇宙科学研究センター特任教授。1988年、東京大学大学院博士課程中退。国立天文台助手、東京大学宇宙線研究所准教授を経て2025年まで同教授。その間、2016年から2024年、宇宙線研究所重力波観測施設長。2025年4月、東京都市大学着任、現職。

APPENDIX追加資料

・researchmap(大橋 正健)
・総合研究所マルチメッセンジャー天文学研究室

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