東京都市大学世田谷キャンパス1号館に設置されている太陽電池
半世紀の研究が切り拓く、太陽電池の次の時代
住宅街を歩けば、今では多くの住宅の屋根に太陽電池が設置されていることに気づく。工場や倉庫の屋上、郊外の広い土地にも太陽光発電の設備が広がっている。太陽の光から電気を生み出し、発電時に二酸化炭素を排出しない太陽光発電は、カーボンニュートラル社会を実現するための重要なエネルギー源の一つだ。しかし普及が進んだからこそ、次に解かなければならない課題も見えてきている。半世紀以上にわたり、太陽電池を研究し続けているのが、総合研究所の小長井誠特別教授である。今回は小長井特別教授と共に研究を進める、理工学部の石川亮佑教授にも研究内容を伺った。
小長井特別教授が太陽電池の研究を始めたのは1970年代。当時、世界は第一次オイルショックに見舞われ、日本でも石油価格が高騰し、将来の資源枯渇が現実的な問題として受け止められていた。東京工業大学の大学院で半導体を研究していた小長井特別教授も、こうした社会的な流れの中で太陽電池の研究に携わるようになった。それから約55年。研究を始めた頃には資源問題への対応として期待されていた太陽光発電は、現在では二酸化炭素の排出量を減らすための技術として、さらに大きな役割を担うようになった。すでに我々の生活に浸透し、完成された技術のようにも思えるが、小長井特別教授はその見方を否定する。「よく研究者の仲間から『まだ研究やっているの?』と言われることもあります。太陽電池は、発電設備として使うためには大きな面積でつくる必要があり、しかも普及のためには安く、高い性能を持つことが求められる。これらを同時に実現させるのはとても難しいのです。やるべきことは、まだたくさんあります。」

現在、世界で主流となっているのがシリコンを使った太陽電池である。価格や耐久性に優れ、長年の研究によって変換効率も高められてきた。一方、性能をさらに高めようとすると、シリコンだけでは越えることが難しい壁がある。太陽から届く光は一種類ではなく、紫外線から可視光、赤外線まで様々な波長を含んでいる。一つの半導体ですべての光を効率よく電気へ変えることは難しい上、シリコン太陽電池には原理上の変換効率の限界がある。そこで研究が進められているのが「タンデム太陽電池」である。性質の異なる太陽電池を重ね、それぞれが得意な波長の光を受け持つことで、一種類の材料だけでは利用しきれなかった光を電気へ変え、さらなる高効率化を目指す。小長井特別教授らは、ペロブスカイトとシリコン、あるいはペロブスカイトとCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレンからなる多元系化合物半導体)を組み合わせたタンデム太陽電池の研究に取り組んでいる。ペロブスカイト太陽電池とは、特徴的な結晶構造である「ペロブスカイト構造」を持つ材料を発電層に用いる、次世代型の太陽電池である。発電層を非常に薄くすることができ、材料を塗布や印刷によって形成できることから、軽量化や低コスト化が期待されている。フィルム状にすれば柔軟性も持たせられるため、従来のシリコン太陽電池では設置が難しかった建物の壁面などへの利用も期待されている。

変換効率を高めることは、単なる数字の競争ではない。同じ面積から多くの電力を得られれば、必要な設置面積を減らし、架台や配線、施工まで含めた発電システム全体のコストを下げることにもつながる。小長井特別教授が重視してきたのも、太陽電池を一つの部分だけで捉えないことである。「材料を作って、デバイスを作って、それから大きなモジュールにして、屋外でどう発電するかを見て、どんなシステムができるか。そこまで全部やる必要があるのです。」
その考えを可能にしているのが、研究室に蓄積されてきた設備と技術である。実験室には、半導体を製造する大型の装置が並ぶ。ガラスやシリコン基板、フィルムなどの上に異なる膜を積み重ね、実際に太陽電池を製造する装置や、光を当てた時にどの波長が反射し、どの程度透過するのかを測定する装置も設置されていた。材料をつくるだけでなく、その材料が太陽電池の中でどのように光を受け、電気を生み出しているのかということまで確かめるのである。新しい材料を研究する上でも、こうした長年の蓄積が重要であり、ペロブスカイト太陽電池にも、過去の半導体研究で培われてきた製膜や評価の技術が数多く使われているという。「ペロブスカイトの技術も、昔の技術をベースにしています。いろいろな知識があって、作ったり観察したりする装置もある。全部できるということが重要なのです。」

そして現在、この研究を小長井特別教授とともに進めているのが、石川教授である。小長井特別教授が電気・電子工学を背景に研究を進めているのに対し、石川教授は化学をバックグラウンドに持つ。修士課程修了後には半導体メーカーで先端デバイスの開発に携わり、その後、博士課程で太陽電池研究を始めた。ペロブスカイト太陽電池は、材料の組成や作製条件によって性能が大きく変化するため、研究開発を進める上では化学的な理解が欠かせない。同時に、高い変換効率を引き出すには、デバイスの構造や電気的な特性も理解する必要がある。材料とデバイス、化学と電気。その双方を一つの研究環境の中で結びつけられることが、研究室の大きな特徴だと石川教授は説明する。「ペロブスカイトとシリコンをつなげたタンデムをやろうと考えた時に、一つの研究室で両方をつくり、それを解析できるところは多くありません。大きな特徴と言えます。」

ペロブスカイト太陽電池における課題の一つが、信頼性である。シリコン太陽電池は数十年間使うことを前提とした技術が確立されてきたが、ペロブスカイトは水分や熱などの影響を受けやすいため、長期間にわたって性能を維持するための研究が続いている。研究室では実際に太陽電池を屋外へ設置し、日射や気温、雨などにさらされる中で、発電性能が時間とともにどのように変化するのかも調べている。「5年ごとに、その都度太陽電池を取り替えるようでは、普及しませんよね。廃棄する度に環境負荷もかかってしまう。信頼性が重要ですね。」

さらに、太陽電池が社会へ広がるほど、技術だけでは解決できない問題も生まれる。小長井特別教授が挙げるのが「社会受容性」である。太陽光発電は大きな面積を必要とするため、設置場所によっては自然環境や景観、地域との関係が課題になる。平坦な土地が限られる日本では、住宅の屋根だけでなく、ビルの壁や窓など、これまで十分に活用されてこなかった場所へ発電設備を広げることも必要になる。軽量で柔軟性を持たせられるペロブスカイト太陽電池には、そうした新しい用途も期待されている。

かつて数キロワット規模の太陽光発電設備を設置するには、高額な費用が必要だった。それが材料や製造技術、大量生産の進歩によって価格を下げ、現在では広く設置されるようになった。シリコン太陽電池が普及した先に高効率化という課題があり、ペロブスカイトという新しい材料が開発された。さらにタンデム化、長寿命化、社会へのさらなる導入と、問いは広がり続けている。「先は長いと思います。ペロブスカイトを使った太陽電池はまだ大規模に使える段階ではありません。社会に普及するまで石川先生と共に研究を推進していけたらと思っています。」

太陽電池に関わる問いを一つひとつ解きながら、小長井特別教授は半世紀以上にわたり太陽電池と向き合ってきた。かつては石油に代わる新しいエネルギーを求めて始まった研究が、今ではカーボンニュートラル社会を支える技術へと役割を変え、そこに新しい材料も加わった。研究のテーマは時代とともに姿を変えても、より多くの光を、より効率よく電気に変えたいという想いは変わらない。長年、積み重ねてきた知識や経験に新しい材料や発想が重なることで、太陽電池に関する技術は今、次の夜明けを迎えている。
総合研究所FUTURE-PV研究室特別教授。1977年、東京工業大学大学院理工学研究科電子工学専攻博士課程修了、工学博士。東京工業大学工学部教授、同太陽光発電システム研究センター長などを経て、2015年、東京都市大学総合研究所特任教授就任。2020年より現職。
理工学部電気電子通信工学科、大学院総合理工学研究科電気・化学専攻、総合研究所FUTURE-PV研究室教授。2012年、東京工業大学大学院 理工学研究科電気電子工学専攻博士課程修了、博士(工学)。NECエレクトロニクス株式会社、新潟大学工学部 助教などを経て、2019年、東京都市大学総合研究所准教授就任。2023年より現職。
APPENDIX追加資料
・researchmap(小長井 誠)
・researchmap(石川 亮佑)
・東京都市大学総合研究所FUTURE-PV研究室