核分裂生成物との新しい付き合い方とは
人工衛星から見た夜の日本列島は、人々の暮らしを支える電気の明かりによって、その輪郭を鮮やかに映し出している。日本では複数の発電方法を組み合わせて電力を供給しているが、中でも原子力発電は天候に左右されにくく、安定して電力を生み出すことができる。資源の多くを海外に頼る我が国にとって、安定した暮らしを支える重要な選択肢となる。一方、電気を生み出した後には、使い終えた核燃料が残る。原子炉で役目を終えた使用済燃料には、まだ利用できるウランやプルトニウムのほか、核分裂によって生じた多種多様な元素も含まれている。その多くは放射性廃棄物として扱われるが、一つひとつの性質を見極め、新たな資源として活用する道を見出すことはできないものだろうか。核分裂生成物との新しい付き合い方を探っているのが、理工学部の佐藤勇教授である。
核燃料サイクルとは、燃料を原子力発電で使用した後、再利用できる物質を取り出し、残った物質を適切に処理・処分するまでの一連の流れを指す。原子炉の中では、ウランが核分裂することで大きなエネルギーが生まれると同時に、セシウムやヨウ素など多種多様な元素も生じる。こうした核分裂によって生まれた元素の総称が「核分裂生成物(FP:Fission Products)」だ。一方「放射性廃棄物」は、使用済燃料を扱う過程で、再利用せずに長期にわたり管理・処分する対象を示す言葉である。佐藤教授は、廃棄物として一括りにされがちな核分裂生成物について、元素ごとの性質に目を向け、別の可能性を探ってきた。「核燃料サイクルを考えたとき、FPは放射性廃棄物として一緒くたにされがちで、邪魔者として扱われます。しかし、それぞれに利用できる元素があるのではないか、というのが私の考えです。」

使用済燃料を再処理する際は、長さ約3〜4cmに切断した使用済燃料を硝酸によって溶かし、再利用できる物質と、それ以外の物質に分けられる。再利用できない物質は安全に管理できるよう、高温でガラス原料と溶かし合わせ、ステンレス製の容器の中で冷やし固める。これを「ガラス固化体」という。佐藤教授が注目したのが、使用済燃料の中に生じる合金の微粒子だ。ルテニウム、ロジウム、パラジウム、モリブデン、テクネチウムなどが集まり、数十nm~数μmという大きさの粒で存在する。この合金は硝酸に溶けにくく「不溶解残渣」として残る。再処理の過程では、この不溶解残渣もガラス原料とともに取り込まれるが、電気を通しやすいため溶融ガラスを加熱する装置の電気抵抗を変化させてしまい、ガラスの流れを悪くする要因になる。ガラス固化技術の課題となっているが、ロジウムやルテニウム、パラジウムは優れた触媒としての性質を持つ。佐藤教授はこの性質を、2011年の福島第一原子力発電所事故によって生じた、溶けた核燃料などが混ざり合って固まった物質「燃料デブリ」の長期保管に生かせないかと考えている。

燃料デブリは取り出された後、収納容器で管理されることになる。水分を含む燃料デブリに放射線が当たると、水が分解されて水素が発生する。密閉した容器の中で水素が増え続ければ、内圧が高まるおそれがある。そこで、使用済燃料から生じる白金族合金を容器内の触媒として用い、水素と酸素を再び水に戻す反応を促せないかという発想が生まれた。研究室では、実際の核分裂生成物を模した合金をつくり、放射線を照射する試験を行っている。合金を含む試料から発生する水素の量を測定し、触媒としての働きを確かめる。さらに、触媒としての性能を高めるため、加熱によってモリブデンを選択的に取り除くと表面に微細な孔をもつ構造が現れ、触媒として働く面積を大きくできる可能性も見えてきた。佐藤教授は現在、酸素濃度を精密に制御しながら合金を加熱する装置を整え、その微細な構造と機能の関係を明らかにしようとしている。ここで重要なのは、この研究が単に貴金属を回収する技術を目指すものではないという点だ。実際の核分裂生成物には、放射性のものとそうでないものが混在しており、一般的な製品にそのまま利用することは難しい。それでも、放射線を管理できる環境で利用する、あるいは、放射線や、元素が別の元素へ変わる「核変換」という現象そのものを機能として利用するという道を考えるためなのだ。「たとえば、長い期間にわたりごく小さな電力を供給する電池や、放射性物質が別の元素へ規則的に変化する現象を利用した、新たな材料技術などが考えられます。少しでも可能性が広がるのではないかと期待して、“放射能材料”という新しい言葉も提案しています。」

佐藤教授が所長を務める東京都市大学原子力研究所は、旧武蔵工業大学時代の1960年、原子力の平和利用と技術開発を目的に開設された。私立大学の中でも、原子炉を備えている研究施設は多くない。研究用原子炉である「武蔵工大炉」を用いて、脳腫瘍への中性子照射や、微量元素を調べる放射化分析など、国際的にも高く評価される研究を進めてきた。武蔵工大炉は1989年末から運転を停止し、現在は廃止措置の段階にある。原子炉の燃料や主な機器はすでに撤去されているが、現在も放射線取扱施設を活用し、廃止措置や放射線利用に関する研究を進めるとともに、原子力・放射線分野を担う技術者や研究者の育成を続けている。佐藤教授は、核燃料サイクルを里山の循環になぞらえる。森は自然に保たれるわけではない。草を刈り、道を整え、伐採する量を考え、地域の人が手をかけ続けることで循環が成り立つ。持続可能という言葉だけで安心するのではなく、その裏側にある手間や課題まで考える必要があるという。「まずは、放射性廃棄物と聞いて、ただ怖がるのではなく、性質などを理解してほしいです。理解が進めば『このような使い道があるのではないか』というアイデアが、社会の中から次々と生まれてくるはずだと考えています。」

佐藤教授が研究を進めるうえで大切にしているのは、分野の境界を安易に設けないことだ。核分裂生成物を扱うには、原子核がどのように変化するかを考える物理学と、元素の性質を理解する化学の両方が欠かせない。「原子力安全工学科には、安全、計測、構造、燃料など、多様な専門を持つ教員がいます。異なる専門の立場から議論することで、自分の研究を新たな視点から見直す機会にもなります。これからを担う若い世代の皆さんには、化学、物理、生物といった分野の境界にあまりとらわれず、幅広く学んでほしいですね。」

原子力や放射能は、どこか日常から遠い存在のように感じられる。見えないからこそ、そこに何があり、どのように測り、どう扱うべきかを知ることが欠かせない。核分裂によって生まれた物質を、ただ遠ざけるだけでなく、科学の目で確かめ、社会の中でその役割を問い直す。放射性廃棄物を一つの塊として遠ざけず、その中身に目を向けることは、難題を増やすためではない。そこにある可能性と課題に、社会全体で向き合うための第一歩なのである。
理工学部原子力安全工学科、大学院総合理工学研究科共同原子力専攻教授。東京都市大学原子力研究所所長。1999年、九州大学大学院工学研究科応用原子核工学専攻博士課程修了、博士(工学)。核燃料サイクル開発機構(現・日本原子力研究開発機構)、東京工業大学特任准教授などを経て、2017年より現職。